インドの言葉・ヒンディー語で、「ヘナで肌を染める」「ヘナで肌に模様を描く」ことを意味するメヘンディ。
ヘナタトゥー、ヘナアートといった名前でも呼ばれています。
ヘナという植物で肌を染める行為は、主に南アジアから中東、アフリカ大陸で、縁起もの・幸運や吉祥を招くものとして伝わっています。
メヘンディは伝統文化であると同時に、1〜2週間楽しめる手軽なインスタントヘナタトゥーとして
欧米圏はもちろん、最近は日本でも、ファッションに取り入れられるようになりました。
MEHNDI
■メヘンディ(ヘナタトゥー、ヘナアート)とは
メヘンディとは、インドの言葉・ヒンディー語で「ヘナで肌を染める」「ヘナで肌に模様を描く」ことを意味します。日本ではあまり馴染みのないメヘンディですが、その歴史は古く、北アフリカ、中東、インド、西アジアなど、様々な地域で愛され、人々の肌を染めてきました。
世界各地に伝わるメヘンディですが、どの地域にも共通しているのは、メヘンディには邪悪なものから身を守る力や、幸運を呼ぶ力があると信じられていること。特にインドでは、メヘンディを描くために必要な植物・ヘナは、幸運の女神ラクシュミーが最も愛する植物と言われており、祭り事や、めでたいことがあると、女性達は必ず、メヘンディを施します。特に結婚式にはメヘンディは欠かせないものとされており、結婚前夜には「メヘンディ・ラート(メヘンディの夜)」と呼ばれる儀式も行われます。この儀式では、花嫁の手足にびっしりとメヘンディが描かれ、「メヘンディの色が濃く出る程花嫁は幸せになれる、嫁ぎ先で大切にされる」と信じられています。
メヘンディは、中東・北アフリカ・中央アジアなど数々の地域で、伝統文化として現在も伝えられており、最近では欧米でも手軽に楽しめるエキゾチックなインスタント・タトゥとして注目されています。
【メヘンディの流れ 〜ヘナペーストで描いてから、最も濃く染まるまで〜】
1)ヘナペーストを使って肌に模様を描く
ヘナという植物の葉を乾燥させて粉末にしたものを使ったペーストを、肌に乗せて模様を描いていきます。ヘナペーストを肌にのせているだけなので、痛みもなく、肌を傷つけることもありません。
2)ペーストを乾かす
模様を描き終えたら、ペーストが乾いてかさぶたのような状態になるまでそっとしておきます。乾く前に触ってしまうと、デザインも崩れてしまいますし、洋服などにつくと汚れてしまうので注意。ペーストは多少湿った状態でできるだけ長時間つけておくとよく染まります。できれば2〜3時間は、ペーストをつけたままにしておきましょう。
3)乾いたペーストをはがす
十分に時間を置いたらペーストをはがします。指やヘラなどでぽろぽろと落としましょう。ペーストを剥がした直後は、肌はオレンジ色に染まっています。オレンジ色の状態の時は、できるだけ水に濡らさない・こすらないよう気をつけましょう。
4)2〜3日後に最も濃く染まる
染まった模様はオレンジ色から茶色へと変化します。2〜3日後に最も深くはっきりとした色になり、その後1〜2週間程かけて徐々に薄くなり、消えていきます。色の発色具合や消えるまでの期間は個人によってもペイントした体の部位によっても異なります。できるだけこすらないように気をつけることで、より長い期間メヘンディを楽しむことができます。
【メヘンディを濃く染めるための注意点】
1)ペーストはできるだけ長時間肌にのせておく
湿った状態のペーストを長時間肌に乗せておいた方がより濃く染まります。最低でも2時間以上は肌にペーストをつけておくのがベストです。
インドではメヘンディを描いた後に、ペーストが剥がれないようニンブーチーニーと呼ばれるレモン汁に砂糖を溶かしたものを、半乾きのペーストの上にコットンなどでとんとんとパッティングします。レモンが染まりを良くし、溶けている砂糖の粘性でペーストが剥がれるのを防ぎます。レモンの肌への刺激が気になる場合は水に砂糖を溶かしただけのものでも、ベタベタとしてペーストが剥がれにくくなります。
日本では薬局などで売っている防水フィルムやテーピングテープなどをペーストの上から張り付け、保護するやり方も広まっています。肌の弱い方はテープによってかぶれる場合もあるので注意しましょう。トイレットペーパーやガーゼでペーストを覆って保護することも可能です。
2)オレンジ色の時は、濡らさない・こすらない
ペーストを剥がした直後、肌は明るいオレンジに染まっています。この時はまだ発色途中で、ヘナの色素も肌から抜けやすくなっています。ペーストを落としてから数時間は極力水に濡らさない・こすらないようにするのが、ヘナの色素を逃さず濃く染めるための大切なポイントです。
3)染まったメヘンディをより長持ちさせるために
茶色く染まった後も、できるだけ水につけたりこすったりしない方が長持ちします。
HENNA
■ヘナ(ヘンナ)とは
メヘンディを描くペーストの元となるのが、ヘナ(ヘンナ)という植物です。ヘナは中東、インド、西アジア、アフリカ大陸の地中海沿岸など、主に北緯10~30度線上の乾燥した地域で育つ、ミソハギ科の多年性の潅木。ヘナの葉にはタンパク質に反応して染色するローソン(Lawson)という成分が多く含まれているため、髪や皮膚などを染めることができます。また、殺菌や体温を下げる効果のある薬草としても知られており、古くから解熱や火傷・傷の治療など、様々な用途で使われてきました。
一般的に広く知られてるヘナ(henna)という名はペルシャ語で、その他にHenne、Shazab、Hina、Madatantika、Lawsonia Inermisなど、様々な呼称があります。日本では「指甲花(シコウカ)」と呼ばれています。
メヘンディをするには、ヘナの葉を乾燥させたものを粉砕し、粉状にしたものが主に使われます。生葉をそのまますり潰し、肌にのせても肌は染まりますが、葉脈などのが固いクズのようになって含まれているため、細かな模様を描くのには適していません。
インドの古典舞踊では、踊る際に指先や足の表現をより美しくくっきりと見せるため・吉祥の願いを込めるために、指先を染め、掌や足の甲に丸い印を描くアルタと言う化粧(専用の染料そのものもアルタと呼ばれます)が施されるのですが、このアルタをヘナで施すこともあり、その際に描かれるような大きく大胆な模様の場合は、ヘナの生葉を使って染める事も有効です。
インドでは農村部に行けばあちこちにヘナの木が生えていることも多く、子供達の遊びの一つにもなっています。
■ヘナが肌を染めるシステム
ヘナの成分は、大きくは2つにわけられます。一つはローソン(lawsone)、もう一つはタンニン酸(tannic acid)。この二つはいずれもたんぱく質と結合する性質を持っており、この二つが上手に作用しあって、肌や髪を染めていきます。そしてこの二つの成分は、ヘナの葉肉に最も多く含まれています。
ローソンはヒドロキシル基とナフトキノンからなる(2- ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン)酸化型赤色色素。冷水にはやや溶けだしにくく、有機溶剤に溶けやすいという性質を持っており、酸化することでより強く発色します。このローソンが作用が肌を茶色やオレンジ、赤色に染める、メヘンディの色素です。
タンニン酸は、色素を持っていませんが、収斂作用といって、たんぱく質との強い結合能力を持っています。この作用は、肌をひきしめたり炎症を抑えたりする効果があるので、肌にヘナを乗せると、肌がすべすべになったり、ひんやり感じたりします。タンニン酸はポリフェノールの一種で、茶、赤ワイン、柿、バナナなどに含まれる渋味成分。強い殺菌効果を持っています。
皮膚の主成分はたんぱく質です。人の皮膚は、「表皮」「真皮」「皮下組織」という三層構造になっています。皮膚の一番上の部分にあたる表皮は、古くなった表皮をターンオーバー(新陳代謝)と呼ばれる仕組みで、垢として約28日の周期で剥がれ落としていきます。そして、この古くなって剥がれ落ちる表皮を「角質」といいます。 角質はケラチンというタンパク質からできており、ヘナの色素であるローソンは、このケラチンに絡み付き、肌を染めます。
簡単に言えば、メヘンディとして肌を染めるヘナの原理は、ローソンが赤色に染める効果を持ち、たんぱく質(肌)とのより高い結合力を持つタンニン酸が、その染色効果を高める、ということです。ローソンとタンニンによるたんぱく質との結合は、温度が高いほど効果が高まります。ヘナを肌にのせたあと、温めた方が良いとされるのは、そのためです。
BLACK HENNA
■ブラックヘナとは
ヘナは天然の植物であるため、染められる色は茶系(オレンジ~濃い赤褐色)のみ。しかし、海外では時に「ブラックヘナ」と呼ばれる、黒く発色するメヘンディに出会うことがあります。ほとんどの場合、このブラックヘナにはPPDという科学染料が添加されており、人によってはアレルギー症状をひきおこしたり、火傷のように肌に痕が残ってしまうこともあります。また、PPDには発がん性物質を含むものもあると言われています。最近のインドでは、このブラックヘナが好んで使われている場合が多く、ブラックヘナを勧めてくるメヘンディ・ワーラー(アーティスト)も増えてきています。インド人女性の手に、ヘナとブラックヘナを併用しツートーンで描かれたメヘンディを見る事も多いです。
海外のお店でメヘンディをする場合、ペーストが真っ黒である、依頼後にペーストを練りだす、「すぐに染まる」「20分程でペーストをとる」「黒く染まる」と言われる、などの場合、ブラック・ヘナを使用している場合があります。心配ならば、お店の人にナチュラルヘナか、ケミカルかを確認した方が良いでしょう。
メヘンディを安全に楽しむためにも、「ブラックヘナ」「カラーヘナ」とうたわれているメヘンディは、避けることをおすすめします。
LICENSE
■メヘンディ(ヘナアート)の資格
時々、メヘンディ・アーティストとして活動するのに資格は必要なのか、メヘンディのスキルを計る検定などはあるのかと言ったご質問をいただきますが、現在の日本ではメヘンディ・ペイントの活動をするのに、公的な資格・検定などは一切ありません(メヘンディが広く普及しているインドでも、“公的な資格・検定”はありません)。
インターネットを検索すれば、メヘンディを学ぶスクールや講習会もありますし、独自の認定証なるものを発行しているところもありますが、いずれもスクールや主催者が独自に設定しているだけのもので、公的には何の効力もありません。
もちろん、メヘンディについて何も知らないお客様の方から見ると「資格がある」というだけで安心される場合もあるかと思いますが、実際にはスクールで学んだり、資格を取得したからと言って必ずしも美しいメヘンディを描くアーティストになれるわけではありませんし、安心してメヘンディ・ペイントをしてもらえる、というものでもありません。私自身は、メヘンディは必ずしもスクールなどで学ぶ必要性のあるものではない、と思っています。
メヘンディ・アーティストとして活動するために大切なのは、数をこなしてメヘンディのペイントに慣れること。ペイントの方法(コーンの使い方)も、デザインなども制約は何もありません。一部のスクールでは「資格」「認定」がないとアーティスト活動は出来ないと触れ回っている不誠実な講師もいるようですが、メヘンディは誰もが気軽に楽しむことが出来るもので、スクールに通ったり資格を取得しないとアーティストになることができないということは全くありません。
DESIGN
■メヘンディ(ヘナアート)の模様の意味
日本でメヘンディ・ペイントの活動をされている人の中には、メヘンディの模様に意味付けをして「願い事が叶う」「運勢が上がる」ヘナアートとしてペイントをされている方もいます。そういたスタイルで活動されている方たちからは「インドではひとつひとつの模様に意味が込められている」と紹介される事が多いのですが、実際には、今日のインドでは、模様に込められた意味を意識しながらメヘンディを描く…という事は、ほとんどされなくなっています。また、そういうスタイルでメヘンディを描いている方は「ヘナアートが消える頃に願いが叶う」と宣伝していますが、インドでは、メヘンディが消える事にその願いが叶うという考えはありません。
最近のメヘンディは、どちらかというとデザイン性を追求していく傾向にあり、模様の意味云々ではなく、とにかく美しいものを良しとする場合がほとんどです。そもそも、ヘナやメヘンディ自体が「幸運を呼ぶもの」「幸福の象徴」とされているため、あえてその模様に意味づけをする…という事は、必要がないということなのでしょう。 最近の日本で使われている模様に対する意味の定義は、どこかで、誰かが「規定」として定めたもの。中には、インドではこんな模様は使わないけれどな~…と言う模様まで「ヘナアートの模様」と定義され、意味付けされています。
インドには「○○という模様には□□という意味がある」という、はっきりとしたルール・決まりはありません。例えば、孔雀や蓮の花のデザイン。日本では、孔雀は「愛の象徴」、蓮の花は「毅然」という意味であると紹介されている事がほとんどですが、インドでは、上記の意味がある、という人もいれば、孔雀は「富の象徴」、蓮の花は「純潔」を意味するのだという人もいます。このように、同じモチーフでも、人や地域によって、意味は異なってきます。メヘンディには、もともと、一つの模様に対する明確な意味の規定はないのです。
メヘンディの模様に込められた意味を知りたいから、スクールに通いたい…という方もいらっしゃるかもしれませんが、既存のスクール系列の、誰かが定めた模様と意味の定義を使用するのもいいですが、モチーフに自分なりの解釈を込めながら、「自分だけの意味を持つメヘンディ」を楽しまれても良いのではないでしょうか。すでに決められた枠の中でメヘンディをするよりも、より一層メヘンディを楽しめると思います。